今回は日本語教員試験の重要キーワードの一つ「中間言語」「化石化」について解説します。どちらも日本語学習の過程を理解する上で重要な用語ですので、どのようなものなのか理解しておきましょう。
中間言語とは?
中間言語とは、簡単に言うと「学習途中の状態の言語」のことです。言語を学ぶ過程で、学習者は様々な誤用をします。アメリカの言語学者ラリー・セリンカーは、「言語学習者の誤用は一つ一つが個別のランダムなものではなく、一つの言語体系のようになっている。学習者の頭の中に、母語でも目標言語でもない独自の言語体系が存在する」と考え、中間言語理論を提唱しました。
「中間言語」は特定の状態の言語を指すのではなく、学習の初期段階から最終段階まで変化しながら続いていくものです。そのため、学習過程にある学習者の話す言語はすべて中間言語であると言えます。セリンカーの理論では、誤用を「直さなければならない悪いもの」としてではなく、学習者だれもが通る道=「中間言語」であるとして、前向きに捉えようとしました。
言語教育において、誤用を分析する分野を「誤用分析」といいます。中間言語理論はこの誤用分析においてよく出てくるキーワードです。誤用分析が発展したものとして「中間言語分析」という分野もあり、学習者の正用・誤用を合わせてどのような体系をなしているかを分析します。
同じ言語を学んでいる学習者でも、一人ひとり学習の進み方が異なり、正用・誤用にも個人差があります。教育を行う立場からは、その学習者の中間言語を分析することでより効果的な介入を行い、言語スキルの向上に役立てることができます。
誤用分析は日本語教員試験でも出題が予想される分野の一つですので、関連する用語の意味を押さえておきましょう。
化石化とは?
学習者の中間言語は、学習しながら常に変わっていきます。しかし、学んでいる途中である形のまま定着してしまい、変化しなくなってしまうこともあります。これを「化石化(focilization)」といいます。簡単に言うと「間違えたまま定着してしまい、直せなくなっている状態」のことです。
学習が進んでいくと、以前学習したことを忘れてしまったり、何とか伝えようと自分なりに話しているうちに、独自の話し方が定着してしまうことがあります。また、間違いではないものの、初期に習った特定の言い方に慣れ親しんでいるために使い分けができず、同じ表現を使い続けてしまうこともあります。
本人の言語社会生活にあまり影響がない場合もありますが、中級・上級者が「ある程度は流暢になり、自分では話せているつもりでも、周囲に意図が正しく伝わらなくて困っている」というようなケースがあります。こうした場合は学習者本人と周囲の人とのコミュニケーションに齟齬が起きていて、本人が望まない評価を受けてしまう、あるいは仕事が円滑に進まないといった問題にもつながるため、日本語教育の介入が必要な場合があります。
いずれのケースでも一度間違えたまま使い慣れてしまうと後から修正することが難しくなってしまうため、流暢さ・正確さを伸ばすという観点から「化石化」には注意が必要です。
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どうして化石化が起こるのか
どうして化石化が起こるのか考えるために、まずはよくある学習者の誤用を整理してみましょう。
1. 言語転移
よくあるのは自分が既に話している言語や母語の文法や語用、発音などを学習言語に当てはめて使っている場合で、「母語の干渉」などと言うこともあります。学習言語と自分の母語が似ている場合にはいい影響(正の転移)を与えることもありますが、似ていない場合には誤用のもとになりやすい(負の転移)です。
例1)助詞の誤りの例
中国語圏の学習者によく見られる例で、中国語の「的」を日本語の「の」に置き換えている例。(※中国語話者以外でも「日本語の勉強」のような名詞の接続「の」を形容詞の接続にも当てはめて「小さいのとき」のように言う例は多くあります。この場合は後に説明する「過剰般化」の影響と考えられます)
例2)語用の誤りの例
✕「実は私はコーヒーです」
意図:”Actually I’ll have a coffee.(あ、やっぱり、コーヒーにします)”
✕「ときどきいいです」
意図:”Sometimes it’s good.(いいときもある)”
✕「じゃあ、今帰っています」
意図:”I’m leaving now.(そろそろ帰るね)”
英語圏の学習者によく見られる例で、英語の語彙文法を日本語に直訳しているような例。
2. ルールの過剰般化や単純化
一つの文法ルールを他のものにも当てはめたり、文法を単純化して話したりする場合です。複雑なルールよりも、扱いやすく汎用性の高いものは優先して記憶されやすく、誤用をしやすくなります。
よくある誤用例:
✕「絵を書きて」「本を読みて」(〇書いて、読んで)
本来は「書いて」「読んで」など1グループ(五段活用動詞)動詞は活用の際音便化しますが、「借りる-借りて」「寝る-寝て」のような2グループ動詞(一段活用動詞)と同じように活用している。
✕「映画を見ると、買い物すると、カフェに行きました」
(〇映画を見て、買い物して、カフェに行きました)
本来は動詞の「て形」で接続するところを、名詞接続の「と=and」でつなげている例。
✕「日本語読むできるでも書くできない」(〇読めるけど、書けない)
可能形の活用を使わず、単純化して「できる」を使用している例。また、「~けど」「~が」ではなく「でも」を文にそのままつなげる誤用もよく見られる。
✕「とても悪いになります」(〇悪くなります)
形容詞の活用が抜ける。
✕「昨日遊ぶ」(〇昨日遊んだ)
時制の変化がなくなっている例。
3. 内容自体の簡略化
意味理解に直接関係のない部分が省略されてしまい、直接的で単純な言い方になる。
よくある例:
・「明日の予約を10時にしていただいてもよろしいでしょうか」
→「明日10時いいですか」
・「昨日遊びに行きたかったけど、宿題が終わっていなかったから、お母さんに『だめ』って言われた」
→「昨日は行く、でも宿題しない、お母さんはだめ」
内容自体の簡略化については、母語話者動詞でも「明日、行く?」など短い形での意思疎通は頻繁に起こるため、必ずしも誤用とは言えません。しかし、意味部分だけになると不躾な印象を与えたり、論理関係・時間の前後関係がわからなくなってしまい、意思疎通に支障が出ることもあります。
4. 学習上・生活環境の影響
こちらも必ずしも「間違い」になるわけではありませんが、授業や日常生活で繰り返し見聞きする表現や学習初期に習った表現を過剰に使用し定着してしまうケースもあります。
よくある例:
・初級前半で習う「~ですから」「そして」「でも」などの接続表現ばかり使ってしまう
・初級後半で学習する「~んです」の過剰使用
例:おはようございます。毎日暑いんですね」「本当にそうなんですね」
・仕事で使う表現の過剰使用
例:普段サービス業で働いている学習者が、先生や市役所の職員に対しても「かしこまりました」などの表現を使ってしまう等
1. 言語転移
ここで挙げた誤用は、どれも日本語学習者によく見られるものです。このような誤用が修正されずに学習が進んでしまうと、間違えたまま定着してしまい、結果的に化石化を起こす原因になります。
化石化が起きやすい人・起きにくい人、化石化を必ず防ぐ方法・・といったものがあるわけではなく、「初級者は間違いが多く、上級者には間違いが少ない」ということでもありません。学習プロセスには個人差があり、日本語の学習歴が長い学習者でも、時間とともに初期に習ったことを忘れてしまうことはありますし、初級の学習者でも正確性が高いケースもあります。いずれの場合でも、化石化の修正をするときは学習者の話し方や学習の仕方の癖を理解して適切な介入を行うことが必要です。
ただし、語学教育では必ずしも「間違いをゼロにする・完璧にする」ことを目的にするわけではありません。学習者の個性や業種・年齢などによる話し方の違いがあるのは自然なことですので、学習者の学習目的や、学習者本人の言語・社会生活に影響を与えるかどうかなどを判断したうえで、指導を行っていくのが実際のところです。
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日本語教員試験対策は「合格パック」詳細はこちら日本語教員試験の出題方法とは?
2026年3月現在、日本語教員試験の過去問題集などは公表・出版されていないため、これまでの「日本語教育能力検定試験」からの流れを踏まえて出題傾向を予想してみます。
今回紹介した「中間言語」や「化石化」のキーワードが出てくるのは誤用分析の分野ですので、日本語教員試験の5つの範囲「社会・文化・地域」「言語と社会」「言語と心理」「言語と教育」「言語」のうち、言語教育理論などを扱う「言語と教育」の分野での出題が予想されます。
日本語教育能力検定試験では、実際に言語教育の現場で起きることや言語学習についての文章を読み、用語の意味を問うものや、ある現象を説明する理論として正しいものはどれかを答えさせるような問題が出題されていました。
問題例
1 発話行為理論 2 相補分布 3 中間言語 4 言語転移
1 中間言語 2 負の転移 3 母語干渉 4 過剰般化
1 フォリナートーク 2 簡略化 3 化石化 4 縮約形
いかがでしょうか。
答え
問題1:正解は3 中間言語
問題2:正解は4 過剰般化
問題3:正解は3 化石化
です。
できましたか?
上記のように語彙の意味を聞くだけでなく、語彙からその位置づけや概念の説明を選ばせるような問題も過去に出題例があります。
問題例
問2 『文章中の下線部B「学習者の誤用」の一つである「過剰般化」の例として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。』
1(改革したい, という意味で)いろいろな方面も改革たいと思います。
2(またご連絡します, という意味で)まだご連絡します。
3(面白くない, という意味で)この本は面白いじゃありません。
4(住んでいた,という意味で)去年、私は中国に住んでいます。
問5 『文章中の下線部E「中間言語分析」の説明として最も適当なものを、次の1~4の中から一つ選べ。』
1 学習者の目標言語の規範と実際の使用言語とのズレを研究対象としている。
2 学習者の目標言語使用に見られる母語の影響を解明することを目的としている。
3 学習者の正用, 誤用両方を含めた目標言語の使用を研究対象としている。
4 学習者の目標言語使用に見られる誤用の定着を防ぐことを目的としている。
1 簡略化 2 フォリナートーク 3 化石化 4 リエントリーショック
答え
問2:正解は3
名詞・ナ形容詞の否定形「~じゃありません」をイ形容詞にも転用している例です。
問5:正解は3
中間言語分析は学習者が話す言語を一つの独立した言語体系として分析する分野です。母語の影響や誤用のみを研究対象としているわけではなく、また誤用を起こさない方法を提示するものでもありません。
まとめ
今回は中間言語、化石化について解説しました。
日本語教員試験では言語学の専門用語も多く範囲も広いため、試験勉強ではしっかりと概念・用語の整理をすることが重要です。
知識の定着のためには、実際の用例を含めて覚えるのが効果的。TCJの試験対策講座「国家試験 日本語教員試験 短期合格パック」では、たくさんの用例とともに理解できる理論対策の動画授業で、試験範囲を網羅的に学習できます。
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