今回はアカデミック・ジャパニーズと、それと関連するBICS(生活言語能力)、CALP(学習言語能力)についての解説です。一般的に言う「日本語」と何が違うのか?指導法は?など、試験と現場両方で使える知識です。
アカデミック・ジャパニーズの定義と特徴
アカデミック・ジャパニーズ(Academic Japanese)とは、大学や大学院などの教育の場で必要な日本語力のことです。授業を聞いて理解する力はもちろん、専門書や学術書、論文を読みこなす読解力や、レポートや論文を書く能力、授業や学会などで口頭発表をしたりディスカッションをしたりするスキルも含みます。
大学以降の高等教育では授業やテストを受けるだけではなく、自ら情報を整理して分析し、レポートや論文などの形にまとめたり、それを発表したりするスキルが必要です。
日本語教育の現場ではその入り口として、作文指導や論文やレポートの書き方の基礎、グループディスカッションや簡単なプレゼンテーションから学んでいきます。進学先の大学でも、授業の一環で書き方の指導を行ってくれる場合もありますが、入学前に他の学生と並んで自主的に取り組めるだけの力をつけておくことが望ましいです。
CALPとBICSの違いとは?
アカデミックな日本語の習得を考えるときに、学習言語能力(CALP)と生活言語能力(BICS)の二つの考え方が参考になります。
生活言語能力(Basic Interpersonal Communicative Skills)は日常生活に必要な言語能力のことです。伝え合うための言語運用力、というとわかりやすいと思います。
日常会話は相手の表情や声の調子、ジェスチャーなどのコンテクスト(場面や文脈)があるため、言語能力だけに頼らなくてもやりとりが可能です。日常的に日本語を使用したり継続して学習したりできれば、1~2年での習得が可能と言われています。
一方、学習言語能力(Cognitive Academic Language Proficiency)は、学校の教科学習などに必要な、「新しいことを学ぶために必要な言語能力」を指します。テキストを読んで内容を理解したり、概念や論理を理解してまとめたりするときに必要な言語スキルですね。
日常会話はコンテクストがあり、短いやり取りでも成立します。しかし何かを学習するときの言語は、言語能力だけで論理を追ったり、聞いた内容から文脈を理解しなければならないため、より抽象的・論理的な言語力が必要になります。そのため、学習言語能力は生活言語能力よりも難度が高く、習得には一般的に5~7年、場合によってはそれよりも長くかかるといわれています。
外国から日本に移住してきた子どもたちなどは、「話すとペラペラなのにテストは全くできない」ということがよくあります。これは、生活言語能力(BICS)よりも学習言語能力(CALP)の方が習得が難しく、時間がかかるためです。
教科学習では「交点座標」「~幕府」などの用語や問題文特有の言い回し(「~としてふさわしくないものを選べ」など)もあり、習得が難しいのです。そのため、日常会話とは別のアプローチが必要になります。
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学習言語能力と専門日本語の関係
学習言語能力が必要になるのは、子どもの教科学習だけではありません。「情報を包括的に理解し、論理や文脈を追って頭の中に情報体系を作ったり問題解決に役立てたりするために必要な力」として、広く捉えることもできます。
日本語を学んでいる留学生は、大学などの進学先でこの学習言語能力(CALP)が必要になります。母語ではない言語で高等教育を受けるにはそれなりの準備が必要です。学習言語能力の基礎ができていれば、進学先での学習もスムーズになります。
また、社会人学習者でも、仕事で書類や書籍などの資料を読むときや、行政の手続きに必要な説明書類やインターネットなどのニュースや新聞を読むとき、子どもの学校のおたよりなどを読むときにもこうした読解力が活かせます。
さらに、大学、大学院や専門学校、そしてビジネスなど各業界の職務や研究で用いられる専門的な知識やそれに関する日本語を専門日本語と言います。最近では介護や医療、建設、農業など、特定の業種に特化した外国人材の採用も盛んになってきており、進学先や就職先で必要になる専門的な言葉が分かる、使えるようになることが求められています。
学習言語能力を育てることは、こうした専門日本語の習得の土台にもなるため、とても重要です。
イントネーションは、アクセントのように語彙そのものの意味の分別には影響しませんが、どの語がどの語にかかっているかなどの文構造の提示や発話意図を伝える重要な役割があります。通常、文末のアクセントは文末の最後の音で変化をつけます。
【試験対策】出題傾向と頻出ポイント
日本語教員試験ではどのように出題されるのでしょうか。
まず、「アカデミック・ジャパニーズ」は応用試験などで指導法を考えさせる問題として出てくることが予想されます。
例:アカデミック・ジャパニーズの指導において、不適切なものはどれか。
1.作文指導においては、客観性を保つための「〜と考えられる」「〜とされる」などの表現を導入する。
2.日常会話で使われる「BICS」が十分に習得されていれば、学術的な表現の指導は不要である。
3.講義の聞き取りにおいて、接続助詞や指示語に注目して話の論理構造を把握させる練習を行う。
4.文体の統一や、話し言葉の排除を徹底させる。
正解:2
後半の3つは有声子音が後続する例です。[d][g][m]がそれぞれ有声音のため、その前の母音は無声化しにくくなります。
問題例1:
カミンズ(J.Cummins)が提唱した言語能力の概念について、適切なものはどれか。
1.BICSは抽象的な思考を伴う言語能力であり、6~8年で習得される。
2.CALPは対人的なコミュニケーションにおいて1〜2年で習得される。
3.BICSは文脈に依存した状況で使用される言語能力である。
4.CALPは認知的な負荷が低く、場面の助けを借りて理解される。
正解:3
BICSやCALPは特にJSL(Japanese as a Second Language)の分野で、子どもの日本語教育の課題と絡めて出てくることが多い概念です。応用試験では以下のような指導法に関する出題が予想されます。
問題例2:
「日本で生まれ育った外国につながる子どもが、日常会話には全く支障がないにもかかわらず、学校のテストで点数が取れない」という事例について、最も適切なものはどれか。
1.BICSは抽象的な思考を伴う言語能力であり、6~8年で習得される。
2.CALPは対人的なコミュニケーションにおいて1〜2年で習得される。
3.BICSは文脈に依存した状況で使用される言語能力である。
4.CALPは認知的な負荷が低く、場面の助けを借りて理解される。
正解:1
BICSとCALPは、一般的に比例しません。「話せる=勉強もできる」と思い込んでしまうと、支援が必要な子どもを見逃してしまう原因にもなるため、適切な介入が求められます。また、「母語の保持」と「アイデンティティ」の観点から、現在の日本語教育では家庭内での母語の禁止は望ましくないと考えられています。「母語を大切にしながら、学校で日本語のCALPを育てる」という方針で、支援教室などが設置されることが多いです。
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学習者の課題と指導の工夫
アカデミック・ジャパニーズの指導では、勉強や研究をおこなうための基本的なスキルを育てるとともに「客観性」や「論理性」を伸ばすことがポイントです。
1)リーディング、ライティングの基礎力をつける
・まずは改行やレイアウトなど、基本的な日本語の作文の書き方を学ぶ
・話し言葉と書き言葉、丁寧体、普通体などの使い分けを整理する
・文体を統一する
・適切な語彙表現を使えるようにする
漢字圏出身など、既に高度な漢字の語彙を知っている学習者でも、「自国では日常的に会話で使うが日本語では官公庁の文書などでしか用いられない語彙」などがあり、硬さや使用場面が違うことがあります。使う場面や丁寧度を比較し理解できるようにするといいでしょう。
2)授業に参加するためのスキルを鍛える
・ノートテイキング(全てを書き写すのではなく、記号や図を使ってメモする技術)
・「筆者の主張」と「根拠となる事実」を分け、文章を批判的に読む練習
・プレゼンテーション(聞き手を意識し、論理的に説明する能力)
3)文脈に頼らず理解したり、論理的に説明したりする練習をする
・読解やプレゼンテーションの指導を通し、読み方や説明の仕方を学ぶ
・文章の読み方や「しかしながら」「それゆえ」などの接続詞の使用法
4)定型表現やフォーマットを覚える
・「本稿では~を考察する」「~であると考えられる」といった定型表現を学習
・論文の書き方(序論→過去の研究→問題提起→本論→結論→今後の展望→参考・引用文献)に沿って論を展開する練習
・論文の書式や体裁、参考・引用文献の記載方法など
論文には当てはまりませんが、日本語では「起承転結が大事」などとよく言われます。しかしどのように話や議論を展開するかは言語や文化による差も大きいため、日本語での話の進め方、書き方のフォーマットに注意を向け、慣れていくことが大切です。
5)客観性を伸ばす
・「~と思います」「~ほうがいいです」などの主観的な意志表現を使わない
・「私は」などの主語を入れずに説明する書き方の練習
さらにもう一歩:「名詞文を使いこなす」
自然さを出す方法として筆者がよく中級以上の学習者に伝えるのは、「ビジネスや学術で使われる高度な日本語の文章では、単純な動詞文よりも名詞文や存在文、名詞句を用いた文のほうが好まれる」という点です。一例ですが、初級の文を上級の文に書き換えてみると以下のようになります。
例)
「アンケートを取りました」→「アンケートの実施」
「AとBは似ています」→「AとBには類似性がある」
「よく~します」→「~する傾向がある」
初級では動作をシンプルに表す動詞文を学習しますが、中級~上級の書き言葉の文では
「~がある」という存在の文や、名詞句を使った「~が~られる」などの受身文の方がしっくりきます。
△この数字は、急に高くなりました
〇数値に急激な上昇が見られた
△多くの若者が~を好んだ。
〇若者には~を好む傾向が見られた。
△この調査結果は~の可能性を示した。
〇この調査結果から、~の可能性が示唆された。
上の例はどちらも間違いではありませんが、下の文の方がより客観的に、日本語らしく聞こえるのではないでしょうか。
普段の文法、語彙の授業ともつながっている
文章の流れとして自然な文を書くスキルは、進学指導以前に始まっています。初級でも、日本語特有の文構造(「~は~が構文」や「~のは~です」といった名詞句を作るような文法など)の導入があります。
初級からの語彙文法学習や作文指導で、「どんな時に使うのか」を意識して指導を行うことが重要なのではないでしょうか。
まとめ
今回はアカデミック・ジャパニーズの指導と、関連する概念である「生活言語能力」「学習言語能力」を解説しました。用語・概念をしっかり覚えて試験対策をおこないましょう!現場の指導でも、ここでご紹介した内容を是非参考にしてみてください。
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