間接受け身は直接受け身よりも構造がやや難しく、迷惑の感情(=迷惑の受け身)や、所有物への影響を受け身で表す(=「所有・持ち主の受け身」)という、特徴的な表現になっています。試験でも狙われるポイントですのでぜひチェックしてみましょう。
間接受け身とは何か
間接受け身とは、話者が動作主の行為の影響を間接的に受けるような受け身文のことです。
間接受け身の大きな特徴は
・動作主と受け手の関係が間接的である
・対応する能動文がない
など。
「(私は他の人に自分の)服を汚された」
「鞄を盗まれた」
「日記を読まれた」など、
受け手本人ではなくその持ち物などに動作が及ぶ場合や、「優秀な部下に辞められてしまった」のように動作主の行為によって主語(受け手)が間接的に影響を受ける場合などがこの間接受け身になります。
直接受け身との違い
直接受け身は、主語が動作主からの動作を直接受ける受け身文です。
「(私は)先生に呼ばれた」「(私は)母に褒められた」など、「誰か(何か)が誰か(何か)によって、直接何かをされる」という意味の文になります。
直接受け身の文には対応する能動文があり、能動文と受け身文の書き換えが可能です。
母が 私を 褒めた
→私は 母に 褒められた
先生が 私を 呼んだ
→私は 先生に 呼ばれた
など。
一方、間接受け身は動作主と受け手の関係が直接的ではなく、このように対応する能動文を持ちません。
直接受け身の文には対応する能動文があり、能動文と受け身文の書き換えが可能です。
例)
出かけようとしたら、突然雨に降られた。
笑わせようと変な顔をしたら、赤ちゃんに泣かれてしまった。
このような文の場合、直接受け身のように単に動作主と受け手を入れ替えて「✕雨が私に(を)降った」や「✕赤ちゃんが私に(を)泣いた」などと言うことができません。
このように対応する能動文が存在しない受け身の文を「間接受け身」と言います。
間接受け身には「所有の受け身」「迷惑の受け身」などの種類があります。
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直接受け身は基本的に対応する能動文があるため、目的語を取る他動詞の文であることが多いです。
一方、間接受け身では自動詞・他動詞どちらも使われます。
先ほど紹介した「雨に降られた」「赤ちゃんに泣かれた」という文は、「雨が降った」「赤ちゃんが泣いた」という自動詞の文が元になっています。元の能動文に「私」という目的語があるわけではないため、主語と目的語や補語を入れ替えた直接受け身の文にはならないわけです。
✕ 雨が 降った。
(私は) 雨に 降られた。
✕ 赤ちゃんが 泣いた。
(私は) 赤ちゃんに 泣かれた。
自動詞の受け身文の場合は、能動文にはなかった主語(私は)が出現し、元の文の主語はニ格になります。また、動詞は受け身動詞の形に活用します。
1. 所有の受け身(持ち主の受け身)
ノ格を受け身にする場合は、次のような形になります。
(能動文)誰かが 私の 足を 踏みました。
(受け身文)私は 誰かに 足を 踏まれました。
(能動文)泥棒が 私の 財布を 盗みました。
(受け身文)私は 泥棒に 財布を 盗まれました。
(能動文)受付の人が 私の 名前を 呼びました。
(受け身文)私は 受付の人に 名前を 呼ばれました。
間接受け身ではヲ格はそのまま残り、能動文のガ(ハ)格とノ格が入れ替わります。
動作主がニ格になり(誰かが→誰かに)、ノ格が「ハ・ガ」格になります(私の→私は)。
このような文は本人ではなく体の一部や所有物が動作を受けるため、「所有の受け身(持ち主の受け身)」などと呼ばれます。
「私の足が踏まれた」と「私は足を踏まれた」
所有の受け身は直接受け身の文にすることも可能です。
直接受け身では
(能動文)誰かが 私の足を 踏みました
(受け身文)私の足は 誰かに 踏まれました △
となります。しかし、日本語では通常受け手の視点から述べることが多いため、このように体の一部や所有物そのものを主語にした「私の足は踏まれました」「私の財布は盗まれました」という形はあまり使いません。この点は混乱しやすいポイントなので、授業を行う際注意が必要です。
2. 迷惑の受け身
間接受け身は「他者の行為などによって話者が影響を受け、迷惑や被害を被っている」というニュアンスが含まれることが多いです。そのため、「迷惑の受け身」と言われます。
例)
・自分が描いた絵を友達に笑われた。
・いきなり大きな声を出されて、びっくりした。
・ラーメン屋で並んでいたら、知らない人に列に割り込まれた。
・友達に本を汚された。
・知らない人に家族を傷つけられて、腹が立った。
この用法は英語などの受け身にはなく、直訳しにくいのが特徴です。導入の際は、文の構造とともに話者の感情や意図を理解できるように工夫して例文やイラストなどを選定します。
最後の例のように、自分の所有物などでなくても「自分に近い人物=ウチの人」が何らかの動作を受け、それによって話者が不快に思っているような場合にも受け身がよく用いられます。また、「夫に先立たれた」など、迷惑ではなく「残念・後悔」や「悲しみ」などの感情を表すものもあります。
主観的な被害感情を表すため、使い過ぎや使用する場面に注意が必要です。
3.その他の注意すべきポイント
1)迷惑の感情を表すものはすべて間接受け身というわけではなく、直接受け身でも迷惑の意図が含まれる場合があります。
例)私はハチに刺された。
2)間接受け身はいつも迷惑を表すわけではなく、ポジティブな意味で使われることもあります。
例)
美容師に髪を褒められて嬉しかった。
審査員に自分の作品を評価されて自信がついた。
先生に(自分の)子どもを褒められて嬉しかった。
このように自分の身近な人物や作品・所有物についてよい評価を得たという文脈では前向きな意味で使われることもあります。
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受け身の文は、「言語一般」の知識問題や応用試験の問題の中で指導法の是非を問うような問題で出題される可能性があります。「文構造」「使える動詞の種類」「受け身文が持つ意味」「学習者が間違いやすい部分」が特に注目すべきポイントです。
問題例
日本語の「間接受け身」に関する記述として、最も適当なものを次の 1 〜 4 の中から一つ選びなさい。
1.間接受け身は主語が他者の行為や出来事によって受けた影響を表し、主語の主観的な被害感情や心理的影響を表すことが多い。
2.動作主の行為によって主語が何らかの影響を受ける間接受け身では、その影響が「恩恵」になるか「迷惑」になるかは、述語となる動詞の自他によって決定されるものである。
3.日本語の間接受け身で表現される「迷惑」の意味は他の言語には存在しないため、学習者の誤用を生みやすい項目である。
4.自動詞から作られる間接受け身では、能動文における動作主の「意志の有無」が受け身文の成立条件に関わるため、無意志的な自然現象を動作主とする文は成立しない。
正解:1
【解説】
2:恩恵・迷惑の違いは、動詞が自動詞か他動詞」だけで一意に決まるわけではありません。
3:受け身表現や迷惑を表す表現自体は日本語だけではなく他の言語にも見られます。
4:自動詞の間接受け身(「雨に降られる」「風に吹かれる」など)は、動作主(雨や風)に意志がなくても成立します。
誤用分析から見る指導のコツ
直接受け身と異なり、間接受け身は
・学習者が自分の母語に訳しにくい場合がある
・助詞の変化が複雑
・どの語から文を組み立てればいいか語順が分かりにくい
という点があります。
学習者が間違いやすいポイントは主に以下の部分です。
・動詞の活用(特に1グループ)
・助詞の変化
・受け身を使うべき場面の見分け方
教え方のポイント
1)まずはわかりやすいものから
導入や基本練習の段階では、短いわかりやすい文から始めましょう。いろいろな文を混ぜるより、所有の受け身なら所有物とはっきりわかる例文(「私は足を踏まれた」「私は本を盗まれた」など)で、パターンをそろえた方が導入しやすいです。
※「雨に降られた」などの自動詞の受け身はここで同時に導入しない場合もあるため教材やカリキュラムを見て講師チームで確認すると良いでしょう。
間接受け身では助詞があちこち変わるため文字だけだと学習者は混乱しやすいです。イラストを見せたり、講師が実際に寸劇のように演じて「誰が誰に何をしたのか」、「どんな感情なのか」を表情で理解してもらうことが、そのあとの文法の理屈をスムーズに理解するのに役立ちます。
導入例)
いきなり説明から入ると学習者が混乱してしまうこともあります。教え方は先生によっていろいろですが、筆者の場合は、まず助詞を抜かして、イラストなどで場面を理解してもらい、「私」「他の人」「足」「踏まれた」という意味部分を把握してもらいます。
「この人は知らない人です。この人が、私の足を踏みました。痛いです!いやですね。」
「このとき、日本語で何といいますか?」
「知らない人が、私の足を、踏みました?いいえ。日本語では『他の人が・他の人は・私に』じゃありません。日本語では、『私は』で始めます。」
「私は・・・足を、踏みましたか?いいえ、私は足を、踏まれました。受け身ですね。」
イラストでこのように見せると、動作主と受け手の視点の違いが分かりやすいかと思います。この導入イラスト例では、あえて初めに助詞の部分を強調せず「足を踏む」というかたまりで見せています。

「電車で 知らない人が 私の足を ふみました。」
「電車で 私は 知らない人に 足を ふまれました。」
「誰がふみますか?知らない人ですね。「が」は「に」になります。
※直接受け身で動作主がニ格になる変化は学習済みとしてここでは短い説明にとどめます。
「私の足を・・・ふまれました?」「私の足は・・・ふまれました?」これは言いません。誰の足ですか?「私の足」ですね。これはもう知っています。もうわかりますから、言いません。『足』だけです。」
このような流れで導入してから同じパターンの文をいくつか見せ、初めは色付き、慣れてきたら色やイラストなしで文変換をやってみます。そのあと、イラストだけを見て文を作る練習・・・のように難度を上げていきます。
2)迷惑受け身を使うべき場面とそうでない場面をしっかり理解してもらう
また、「迷惑を表すことがある」という特徴をしっかり押さえられていないと、授受表現を使うべき部分で受け身形を使ってしまう誤用もよくあります。
例)
✕私は友達に引っ越しを手伝われました。
〇私は友達に引っ越しを手伝ってもらいました。
受け身の「手伝われました」の文では、感謝するはずのことに対して迷惑に思っている(「頼んでいないのに」と言っている)ような印象を与える場合があります。
導入の際は、受け手に何らかの恩恵がある場合は受け身形ではなく「もらう」「いただく」「くれる」「くださる」などの授受動詞を使うことにも注意しましょう。
教師が説明してしまうとかえってわかりにくく聞き流してしまうこともあるので、「量で感覚をつかんでもらう」ことも大切です。
「迷惑じゃないときは使ってはいけません」などと言葉だけで説明するよりも、類似例をたくさん見せた方が帰納的にパターンが把握しやすく、学習者の認知負荷を減らせます。
上記の引っ越しの例文のように、同じシチュエーションで
①授受表現を使った例文と嬉しそうにしているイラスト
②同じ動詞を使った受け身文で迷惑そうにしているイラスト
のセットを用意しておき、感情の違いを見せるなどするとわかりやすいです。
一通り学習した後の整理として、あえて学習者に誤用例を見せ、なぜこの場面で受け身を使ってはいけないのかを考えてもらう方法もあります。
※カリキュラムや使用教科書によっては受け身の前に「~てもらう」を習っていない場合もあるため注意が必要ですが、すでに習っている場合には能動態の文、授受動詞を使った文、受け身の文を見せながら、比較して理解を確認するのもいいでしょう。
例)
「今日は引っ越しです。私は一人です。大変ですね。友達にお願いしました。『引っ越しを手伝って!』友達は『いいよ!』と言いました。そして、引っ越しが終わりました。大変でした!わあ、ありがとう!このとき・・・どれがいいですか?」
(3つの文を見せる)
・友達は引っ越しを手伝いました。
・私は友達に引っ越しを手伝われました。
・私は友達に引っ越しを手伝ってもらいました。
「この言い方はいいですか?何が違いますか?気持ちはどうですか?」
このように学習者に問いかけ考えてもらいます。
学習者に主体的に関わってもらうことで定着を促すことができます。
まとめ
いかがでしたか?
今回は「間接受け身」について解説しました。
間接受け身のポイントは
・所有物(や自分の近しい人)への影響を表す
・迷惑の気持ちを表現することが多い
・主語が動作の影響を間接的に受ける
試験対策としては「受け身の活用」「動詞の種類」「助詞などの構造変化」「文型の持つ意味」「学習者への指導で気を付けるべきポイント、他言語との比較」という視点での対策が有効です。
実際の教え方については教育機関、先生によっていろいろな方法があると思いますが、一例として参考にしてみてください。
日本語教育では、このように文型ごとの指導ポイントや試験に出るポイントがたくさんあります。インターネットや本などでも日本語教育の文型については詳しく解説されていますし、日本語教師の知り合いに聞くなどして情報を得ておくと、現場の先生がその文型をどのように捉えて指導しているかなどがわかります。
しかし、周りから現場の情報を得る機会がなかったり、そもそもどのポイントを調べればいいのかわからないなど、初めての学習では独学が難しい点もあります。試験でどのように出題されるかといった部分はなかなか情報が得にくいのも現実です。
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