サバイバル・ジャパニーズとは?初級学習者向け日本語の考え方

サバイバル・ジャパニーズとは?初級学習者向け日本語の考え方

今回は日本語の学習を始めたばかりの人や日本での生活を始めたばかりの人などを対象にした「サバイバル・ジャパニーズ」の考え方や内容、サバイバル・ジャパニーズがなぜ重要なのか、そして一般的な初級日本語との違いなどについて解説します。日本語の初期教育を考える上で重要なキーワードですのでぜひチェックしておきましょう。

目次

サバイバル・ジャパニーズとは?

日本語を母語としない人が日本語を勉強するとき、まず何から始めるのでしょうか。日本語には3種類の文字があり、ひらがな・カタカナ・そして漢字と、文字の学習だけでもそれなりの時間を要します。


さらに語彙や文法、敬語なども含めると、初級と呼ばれている基礎日本語の習得だけでも一般的には300〜400時間程度の学習が必要と言われています。長期的な学習計画を立てる場合は順を追って学習を進めていくことになりますが、その基礎日本語を習得するまでの間にも、病院や市役所、レストラン、同僚との会話などの日常生活があります。特に日本国内に居住する方の場合は、来日時点での日本語レベルにもばらつきがあり、入国した時点である程度話せるという方もいれば、日本語がほとんどわからない状態で来日する方もいます。

特にこの日本語の学習歴が浅く、まだ初級を学習していない、あるいは学習中の人が学べる「さしあたり、日常生活で今すぐに必要な日本語」、それが「サバイバル・ジャパニーズ」です。

サバイバル・ジャパニーズというのは、複雑な語彙や文法の学習は飛ばして、まずはいったん今すぐにそのまま覚えて使える表現を場面ごとに学び、必要な意思疎通ができるようにするというイメージです。(例:「すみません、これ、いくらですか?」「トイレ、どこですか?」「おなかが痛いです」「私はアレルギーがあります」「○○語、できますか?」「これ、新宿に行きますか?」「~に行きたいです」など)

誰が誰に使っても簡単で明確に伝わる、やさしい日本語に近いものですね。

主な対象者は来日したばかりの生活・就労者、その家族や短期滞在者などです。生活者だけではなく、来日して間もない留学生や短期滞在者、旅行者の方や、「海外在住だけど、趣味で少しだけ簡単な会話をやってみたい」というケースにもこのサバイバル・ジャパニーズを教えることがあります。

サバイバル・ジャパニーズの特徴は、

・短期速習ができる

・学習者の日常生活、社会生活に直結する

・文法などの複雑な学習を一旦飛ばして、まずはそのまま使える表現を学ぶ

という点です。

文法や語彙を一つ一つ積み上げて練習や演習をするには年単位の学習が必要ですが、サバイバル・ジャパニーズは「短い・簡単・今すぐ使える」という「スターターキット」のような役割を果たしますので、比較的負担が少なく学習を始めることができます。

サバイバル・ジャパニーズが重視される理由

日本では留学生、生活・就労者ともに在留外国人数が増加し、学習状況も多様化しています。

日本語学習者と言っても様々で、学校などの日本語教育機関で学習する人だけでなく、地域の日本語教室に通ったり、独学で学習したりする人も多くいます。

「初級から始めるには時間がないのでまずは最低限社会生活に必要な日本語を短期的に学ぶ必要がある」という方、「一時的に仕事などの都合で来日している」という短期滞在の方や、「仕事は他の言語で行っているので日常生活など限られた場面でのみ日本語を使用する」という方にとっても、社会生活の足場架けとしてサバイバル・ジャパニーズが重要です。

留学生や、家族帯同で移住した子どもたちの教育においても、日本での新しい生活に馴染みやすくなるよう、準備教育、初期教育としての「サバイバル・ジャパニーズ」の役割が注目されています。

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具体的な学習内容と場面例

サバイバル・ジャパニーズの学習では、実際に日常生活で使う語彙や表現を学びます。しかし私たちが普段日常生活で日本語を使っている場面は、挙げればきりがありません。短い期間で必要な日本語を身に付けられるよう、学習者が遭遇するであろう場面を絞り、その学習者に合わせた表現を選びます。サバイバル・ジャパニーズの学習を目的として出版されている教材や教科書もありますが、一般的な総合教科書や文法学習用のものに比べるとそこまで数としては多くありません。地域の日本語教育用にオンラインや各団体・個人で作成されたものが一般に公開・共有され、使用されるケースも多いです。

生活ですぐに使える表現と言っても、その生活状況は人によって様々です。サバイバル・ジャパニーズでの日本語を使う場面の例としては次のようなものが考えられます。

【場面の例】

・近所の人、同僚などとのあいさつ、基本の自己紹介

・レストランなどで注文する

・ホテルやコンビニでの会話

・市役所などの手続き

・公共交通機関を利用する

・自分が働いている店でお客さんと話す

・会社で同僚と簡単な雑談(天気や週末の予定など)をする

・子どもの学校や幼稚園の先生に連絡事項を伝える、お便りを読む

・駅などで道を尋ねる

・郵便局で荷物を送る、再配達を頼む

・店で物の場所を尋ねる

学習内容の例】

・自己紹介、あいさつ

「私は~です」「~から来ました」「よろしくお願いします」

「すみません」「ありがとうございます」

・短い雑談をする

※天気や週末のこと、感想などを言うための基本的な動詞文、形容詞文

「~が好きです」「~はあまり好きじゃありません」

「~はどうですか?」「暑いです」「暑くないです」

・店での注文

「~は何ですか?」「すみません、○○、ありますか?」

「トイレを借りてもいいですか」

・市役所や病院での会話

「書いてください」「○○語ができます/できません」

ここでの目標は文法を正しく使えるようになることではなく、簡単な日本語で明確に伝えられること、簡単な話し方で(単語や1~3語の文など)相手の言っていることの大まかな内容がわかるようにすることです。

初めは翻訳やイラスト、写真などを使いながら場面と表現を理解し、同じ場面・文型で使えそうなものを入れ替えて練習したり、簡単なロールプレイをしてみるのもいいでしょう。

基本的に学ぶ内容は短く覚えやすい表現ですが、使用頻度が高いものや必要性が高いものについては初級に限らず、上級までの語彙表現を含めて教えることもあります。

例えば学習者が宗教上食べられないものの語彙や漢字(豚肉、牛肉など)、病気や災害など緊急時に必要になる語彙や表現(「地震」「津波」「火事」「逃げろ」など)です。

学習者の仕事や勉強、生活の状況などをよく聞いて、どのような場面で日本語が必要になるのかよく確認しながら進めるといいでしょう。

私が過去にサバイバル・ジャパニーズを扱かったケースでは、

例えば、

・親の仕事の都合で短期滞在していて、ホームスクーリング(学校に行かず自宅で義務教育を行うアメリカなどの制度)で学習している子ども

・定年退職後に日本に移住してきた方

・難民等で急遽日本に暮らすことになった方

などがありました。

それぞれ日常生活で使う簡単な日本語を学習するため、英語で書かれた速習教材や国際交流基金から出ている「いろどり」という教材、また自身で作った子ども用のゲーム形式の教材などを使って教えていました。「いろどり」はウクライナ語やミャンマー語、ラオス語など日本語教材の出版が少ない言語の翻訳版も出ているためおすすめです。

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初級日本語教育との違い

ここまで読んで、サバイバル・ジャパニーズが日本語学習の初めのステップなら、初級日本語と同じものではないの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

サバイバル・ジャパニーズも、扱う語彙文法のレベルとしては初級レベルのものが多いですが、その位置づけと学習スタイルが少し異なります。

初級日本語は、その先の初中級、中級、中上級、上級と長期的にレベルを上げながら学習を続けていく前提で、基本的には難度が低いものから高いものへと順に学習していきます。学習内容も、基本的な名詞文、動詞文、形容詞文などを学習し、そのあとに活用形や複雑な文法などを学んで徐々に長い文を作れるようになっていきます。

これは必ずしも実際の社会生活の場面の使用頻度と一致するわけではなく、学習者にとって効果的で負担のない難度で構成されています。

これに対しサバイバル・ジャパニーズは「今すぐ使うものを学ぶ」という考え方が根底にあります。順番に語彙文法を覚えて行くというよりは、今すぐに生活で必要な表現をかたまりとして覚えてそのまま使うことを想定していることが多く、語彙文法を積み上げていくわけではありません。

サバイバル・ジャパニーズの習得を目的として作られた教材も、長期的に学習するための教材とは少し構成が異なります。

・基本的な、よく使う文が順々に紹介されているもの

・地域の日本語教室などの会話クラスでも使えるよう、話題を広げる質問とヒントになる語彙表現がいくつか紹介されており、自分の言語パートナーや講師と話しながら、表現を互いに教え合って学ぶ、相互学習の活動を促すような構成のもの

・場面やトピックごとに「自分が日本語で言ってみたいこと」や「いつも言い方が分からなくて困っていること」などについて話し、講師や活動のパートナーからヒントを得ながら「自分だけのオリジナル表現集」ができるようになっているもの

などいろいろなものがあります。

登録日本語教員試験対策ポイント

「サバイバル・ジャパニーズ」の用語は地域の日本語教育や初期教育の話題の中で出てきやすいです。「正確性と自然さ・実用性のどちらを優先するか」「文法積み上げか、コミュニケーション重視か」などの観点から整理して覚えておくと良いでしょう。

サバイバル・ジャパニーズのポイントは

・生活に必要な最低限のコミュニケーション能力を身に付ける目的がある

・即効性・実用性を重視する

・短期的に学習することを想定している

・優先度の高い場面の選定が重要である

・文法や正確さよりもコミュニケーションで何ができるかを重視する

といった点です。

予想される出題のされ方としては、用語問題として取り上げられることのほか、サバイバル・ジャパニーズのコースデザインや指導法、背景にある考え方を問う問題も考えられます。

問題例1:

日本での生活「サバイバル・ジャパニーズ」のコースデザインについての記述として、最も適切なものを一つ選べ。


1.体系的な言語理解を図るため、文法構造の難易度順に配列された構造シラバスを中心にカリキュラムを編成する。

2.場面や状況に応じた言語行動の達成を重視し、学習者の緊急ニーズに基づく機能シラバスやタスク・シラバスを採用する。

3.誤用の定着を防ぐため、学習初期から正確なアクセントや文法形式での発話ができるような反復練習が重要である。

4.生活上の文書処理能力を高めるため、日常で用いる基本的な漢字の読み書き練習を文法学習の前に手厚く行う。

正解:2

解説:

1:✕

構造シラバスはいわゆる言語の構造や文型で分類したシラバスで、いわゆる文法積み上げ型の学習でよく用いられるシラバスです。即効性が求められるサバイバル・ジャパニーズでは、文法の難易度順に学習するよりも「その場で使えるか」というニーズを満たすスタイルが適しています。

2:〇

「買い物をする」「体調の不良を伝える」など、生活上の目標達成(Can-do)や言語機能を中心としたシラバスが適切と考えられます。

3:✕

サバイバル・ジャパニーズの段階では正確さよりも意味の伝達が優先され、初期から過度な訂正や正確さを求めることはあまり想定されていません。

4:✕

こちらも同様、サバイバル・ジャパニーズでは、まず話し言葉による意思疎通が念頭に置かれます。日常生活でよく使用する漢字の読み書き(自分の住所や駅名・地名、食べ物の名前、町でよく見る漢字など)は行うことがありますが、漢字学習を中心に置くことはあまりありません。

まとめ

今回は日本語学習者の日本での生活を支える初期教育のキーワード「サバイバル・ジャパニーズ」について解説しました。地域の日本語教育や生活就労者への日本語教育、留学生への初期教育でも役立つ視点ですのでぜひ覚えておきましょう。

そしてぜひ、「自分がもし外国語で生活することになった場合、まずどんな場面でどんなやり取りをする必要があるだろうか?」「自分が日本語で話すときは、普段どんな場面でどんな表現を使っているだろうか?」など、考えるきっかけにしてみてください。

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この記事の執筆者 TCJ日本語講座 非常勤講師

大野 綾香

大学で日本語教育を学んだのち、日本語教育能力試験に合格。日本語学校で留学生の大学受験指導・プライベートレッスン、教材出版等を経験後、2023年よりTCJにて留学コース・ビジネスパーソンのプライベートレッスンを担当。好きな分野は地域日本語教育、音声学。

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