形態素とは?最小単位の考え方をわかりやすく解説

形態素とは?最小単位の考え方をわかりやすく解説

今回は言語学の分野から「形態素」の考え方について取り上げ解説します。日本語教員試験でも出てくる可能性のある、日本語の文の分析に役立つキーワードです。

目次


形態素とは?

「形態素」とは、ある言語の中に存在する「意味を持つ最小の単位」ですそれ以上分けると意味が通らなくなるような、ある音のまとまりが意味を持つ、一番小さい単位。

それが形態素です。「形態素」は「語」やとは異なる概念です。 

例えば英語の場合、”walked”という語は「歩く」という意味の”walk”と過去を表す接尾辞の”-ed”から成っています。このとき、”walked”という単語はwalk”と”-ed”は2つの「形態素」から成り立っていると言うことができます。

日本語でも考えてみましょう。例えば「食べた」は語としては1語ですが、形態素では「食べ(tabe)」+「た(ta)」という二つの形態素になります。「食べ」はeatの意味がある形態素、「た」はほかの形態素とくっついて過去を表す形態素ですね。

つまり、形態素は語よりもさらに小さい、意味上の最小単位なのです。

※ただ、「木」のように語でもあり形態素でもある、というものも存在します。

また、形態素はいつも同じ形で文の中に表れるわけではなく、いくつかのバリエーションを持っていることもあります。例えば「雨(あめ)」と「靴(くつ)」が「雨靴(あまぐつ)」になるように、前後の形態素とくっついて音変化を起こすこともありますね。このように、同じ意味を持つ形態素でも、前後の接続によって違う形で現れるものを異形態と言います。

先ほどの「雨靴」の例でいうと、形態素の{ame}{kutsu}に対して/ame/と/ama/、/kutsu/と/gutsu/は互いに異形態であると言えます。異形態は、同じ形態素の中で音の変化を起こしたきょうだいのようなものです。

言語学において、文を「形態素」に分けて分類・分析することを「形態素分析」と言い、形態素を中心とした研究をする分野は形態論と呼ばれています。

形態素は言語学の分野だけでなく工学などの分野でも活用されており、AIの言語処理技術やインターネットの検索技術などの開発では「形態素解析」などの技術が使われています。

形態素解析ができるソフトやウェブサイトなどもありますが、これらはより実用的に「テキスト上の言語の使用傾向を分析すること」を目的としており、言語学の形態素分析とは分析方法が異なることがあります。日本語教育で活用する際はその点に留意しましょう。

形態素の具体例を言葉を分解して考えてみよう

それでは実際に語や文を分解しながら、形態素について考えてみましょう。

その前に、形態素分析には、いくつかの異なる立場があることを明記しておきたいと思います。

「言葉の最小単位とは何か?」を考えるとき、単語をどこまで細かく分けるかという問題があります。

例えば「東京」は一つの単語ですが、「東」と「京」はそれぞれ独立した意味を持っており別の単語の中で現れることもあるため、別の形態素と考えることもできます。

一方、「東京」を「東」と「京」に分けてしまえば、「とうきょう」という地名としての単語の意味は失われます。そのため「東京」はひとつの形態素としてカウントするべきだという立場もあります。

ここではまず、研究レベルでは上記のような分け方の違いがあることを理解しておいていただければと思います。

■動詞の活用と形態素の考え方

日本語の動詞には活用があります。

先ほどの「食べる( tabe-ru )・食べた( tabe-ta)」のような動詞は、語根(tabe)と接辞(-ru、-ta、-nai)がきれいに分かれるものが多く、比較的分かりやすいです。これは一段活用(日本語教育で言う「2グループ」)の動詞の特徴です。

しかし五段活用(1グループ)の動詞は、分かれ方が少し複雑です。

たとえば、「歩く」という動詞を形態素に分けると、{aruk}+{u}という二つの形態素になります。なぜ「ある」+「く」ではないのでしょうか。

国語の文法では、五段活用の動詞は「ある(語根)+く(終止形)」のように分けて扱いますが、形態論ではこの部分の捉え方が異なります。

五段活用の「歩く」の場合、活用部分に注目すると「歩く/aruk-u/」「歩かない/aruk-anai/」「歩けば/aruk-eba/」のように子音のkを含めた/aruk/までが固定されていて、その後ろの部分が変化しているのがわかります。そのため形態論では「歩く」は{aruk}という語根に接辞の{-u}が接続したものとして扱います。

では、上記を踏まえて文を見てみましょう。

1)店でお茶を飲んだ

品詞分析では
→店(名詞)/で(格助詞)/お(接頭辞)/茶(名詞)/を(格助詞)/飲んだ(動詞)
です。「お」や「ご」などは丁寧さを加える接頭辞ですね。

形態素では、
店 /で / お / 茶 / を / 飲ん / だ
できましたか?

先ほども紹介したように、日本語の動詞(特に動詞の1グループ/五段活用動詞)は、次のように語根が子音で終わるものが多いです。

例1「飲む」

非過去 nom-u
否定  nom-a-nai
過去  nom-da(音便化により実際は/nonda/になる)

例2「書く」

非過去 kak-u
否定  kak-a-nai
過去  kak-i-ta(音便化により/kaita/になる)

先ほどの文の「飲んだ」は語根の{nom}に過去の{-ta}が接続し、音便化を起こして/non-da/と発音されたもの。よって、全体としては{mise-de-o-cya-o-non-da}のように7つの形態素と考えることができるわけですね。


2)きょうはいい天気です

こちらは名詞文です。

→きょう(名詞)/は(副助詞)/いい(形容詞)/天気(名詞)/です(助動詞)

品詞で分けるとこのようになりますね。

さらに細かく、形態素に分けてみるとどうなるでしょうか。

きょう / は / い / い / 天 / 気 / で / す

「天」や「気」は「東・京」と同様にそれぞれが意味を持つ形態素のため2つに分けられます(実用性を重視した分類では「天気」という1形態素と考えることもあります)。

では「いい」や「です」はどうでしょうか。

「いい」は「よい」が音便化したものですね。活用すると「よい(いい)」「よくない」「よかった」のように後ろの部分が変化しますから、{yo}や{i}という語幹と非過去の形態素{-i}や否定の形態素{-kunai}に分けることができます。

「です」は厳密にいうと、{des}という形態素と{-u}という形態素がくっついたものです。「です」は「でした」「でしょう」のように活用することができますが、このとき、音の変化をしない語根の部分は[de]ではなく[des]の部分です。

ひらがなだと子音と母音を分けて書くことができないためわかりにくいのですが、ローマ字で書くと、{des-u}、{des-i-ta}、{des-y-ou}のようになります。「です」は語根の{des}に非過去の接尾辞{-u}が合わさったものですから、上の文は{kyoo-wa-i-i-ten-ki-des-u}のようになります。

※「きょう」は「今+日」「け(此)+ふ(日)」などと捉えた場合2つの形態素になり得ますが、ここでは1形態素としています。

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自由形態素と拘束形態素の違い

形態素の中でも、それ単体で独立した意味を持つ単語になれるものを自由形態素、単独で使うことができないものを拘束形態素と言います。

「紙{kami}」「木{ki}」「鳥{tori}」などはそれ単体でも語として使うことができるため自由形態素、「お母さん」の「お{o}」や「深さ」の「さ{sa}」などの接辞は単独では使えず、常にほかの要素とくっついて現れるため拘束形態素です。

自由形態素は「お薬」の「薬」のように、拘束形態素とくっついて現れることもあれば、単体で現れることもあります。

「食べる」や「暑い」などの動詞や形容詞は自由形態素のようにも見えますが、これらは「食べた」「食べて」「暑かった」「暑くない」など活用して使うため語幹の{atsu}や{tabe}だけが単独で現れるわけではありません。そのため、一般的に動詞や形容詞の語幹は、拘束形態素に分類されます。この点も押さえておきましょう。

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形態素と語・音節・文節との違い

ここで、文の要素を表すキーワードを比較して整理してみましょう。

形態素:意味上の最小単位
語(語彙):文の中で文法機能を持って独立できる最小単位
音節:母音を中心とした音のひとかたまり
文節:文の中の意味のまとまり
(「今日は学校に行きました」→「今日はね、学校にね、行きました」のように、終助詞の『ね』や『よ』をつけて独立して分けることができるのが文節です。)
拍(モーラ:「音節」と混同しやすい用語ですが、拍は音の長さが等しいかたまりのことです。特殊拍や「きゃ・きゅ・きょ」などの拗音は1拍として数えられます。

「東京」

語:東京(1)
形態素:{too}{kyo}(2)※1形態素と考えることもあります
音節:「とう」「きょう」(2)
拍:「と」「う」「きょ」「う」(4)

「お食事券」

語:「お食事券」(1)
形態素:{o}{syoku}{ji}{ken}(4)
※「お」「食事」「券」(3)とする考え方もあります
音節:「お」「しょ」「く」「じ」「けん」(5)
拍:「お」「しょ」「く」「じ」「け」「ん」(6)

「歩く」

語:歩く(1)
形態素:{aruk}{u}(2)
音節:「あ」「る」「く」(3)
拍:「あ」「る」「く」(3)

身近な単語で練習して感覚をつかんでみましょう。

登録日本語教員試験対策ポイント

形態素の概念が出てくるのは日本語教員試験の5つの分野(「社会・文化・地域」「言語と社会」「言語と心理」「言語と教育」「言語」)のうち「言語」の分野です。4択式試験ですので、「形態素分析をしなさい」というような記述問題の出題はされないと思われます。

「異形態」「自由形態素」「拘束形態素」の観点からほかの3つと構成が異なる語を答えさせるような問題や、形態素についての分析を読んで分類が正しいかどうか判定させるような問題を想定して準備をすると良いでしょう。

また、形態論は語形成(ことばの成り立ち)と深い関係にあるため、「畳語」「派生語」「複合語」などの用語と合わせて覚えると効果的です。

問題例1:

後続の音によって異形態が現れる日本語の例として最も適切なものを1つ選べ。

1.「箱(hako)」が「本箱(bako)」になる変化

2.「書く(kaku)」が「書かない(kakanai)」になる変化

3.「読む(yomu)」が「読んだ(yonda)」になる変化

4.「見る(miru)」が「見られる(mirareru)」になる変化

正解:1

同じ「箱{hako}」という形態素が、前の「本」によって連濁し異形態/bako/になっています。

問題例2:

以下の観点からみてほかと性質が異なるものを選べ。

【異形態】

1.語学学校 2.高速道路 3.押し車 4.安全ベルト

正解:3

すべて濁音が入っていますが、異形態になっているのは「押し車」の{kuruma}-{guruma}のみですね。他の3つは元々の語彙と音が変わっているわけではありません。

まとめ

今回は形態素について解説しました。いかがでしたか?

日本語教育の現場ではそのまま形態素という言葉や概念について教えるわけではありません。しかし、語彙のなりたちや動詞の活用を教える際には形態素の考え方が大いに役立ちます。「なぜ日本語では『殺到』と『雑踏』みたいに濁音がつくと違う言葉になるのに、「砂糖」と「角砂糖」は濁音がついても同じ意味なの?」「どうして1グループの動詞は2グループのように『ない』をつけるだけじゃダメなの?」このような質問があったとき、異形態や形態素の語根の形について知っているだけで、説明がぐっと楽になります。

ぜひ整理して試験対策や就職後の対策にお役立ていただければと思います。

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参考文献

佐久間淳一、加藤重広、町田健『言語学入門』(2012)

研究社 大津由紀雄『初めて学ぶ言語学―ことばの世界をさぐる17章―』(2010)、ミネルヴァ書房

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この記事の執筆者 TCJ日本語講座 非常勤講師

大野 綾香

大学で日本語教育を学んだのち、日本語教育能力試験に合格。日本語学校で留学生の大学受験指導・プライベートレッスン、教材出版等を経験後、2023年よりTCJにて留学コース・ビジネスパーソンのプライベートレッスンを担当。好きな分野は地域日本語教育、音声学。

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