暗示的指導とは何か、明示的指導や暗示的知識、帰納的指導との違いを具体例とともに解説します。暗示的指導の特徴やメリット・デメリットを整理し、登録日本語教員試験対策に必要なポイントを理解できます。
暗示的指導とは?
暗示的指導(implicit instruction)とは、学習対象となる言語の規則について、教師が学習者に「助詞の『に』は移動先を表します」「この文型は動詞のて形に接続します」といった明示的な情報を与えずに行う指導です。学習者は規則そのものを学ぶことを主な目的とするのではなく、意味を理解したりコミュニケーションを行ったりする中で、対象となる言語形式に触れます。
混同しやすい二つの概念との違いも確認しましょう。それは、「暗示的知識」と「帰納的指導」です。
「暗示的指導」と「暗示的知識」は同じものではありません。暗示的指導は教師側の「指導方法」、暗示的知識は学習者が持つ「言語知識のあり方」を表します。また、暗示的に指導したからといって、学習者が必ずしも無意識に学習するとは限りません。
さらに、用例を示して「ここからルールを発見しましょう」と学習者自身に規則を考えさせる「帰納的指導」とも異なります。帰納的指導では最終的に規則が意識化されるため、研究上は明示的指導に分類されることがあります。
暗示的指導の特徴とメリット・デメリット
暗示的指導のメリットは、目標となる言語項目を、単なる文法項目としてではなく、文脈を伴った意味重視のコミュニケーションの中で経験できることです。これは、言語形式そのものではなく、意味の理解や伝達に注意を向けるという点で、実際のコミュニケーションに近い言語処理だと言えます。
ただし、「暗示的指導なら自然に身につく」「実践的な運用力が身につきやすい」と一概に言うことはできません。Goo et al.(2015)やSpada & Tomita(2010)のメタ分析では、全体として明示的指導のほうが大きな効果を示しています。明示的指導には、限られた時間で規則を理解・整理しやすいという利点があります。
一方、暗示的指導では教師が規則を明示しないため、学習者が教師の意図した言語形式に注意を向けたり、その規則性に気づいたりするとは限りません。 また、学習者が何に気づき、何を学んだのかを教師がその場で確認しにくいという側面もあります。
そのため、暗示的指導と明示的指導のどちらが適しているかは、学習する項目や学習者、授業の目的などを踏まえて考える必要があります。両者は必ずしも「競合」するものではなく、互いに補完しながら用いることができます。文法規則を明示的に学ぶことと、その言語形式を意味のあるコミュニケーションの中で経験することには、それぞれ異なる役割があるためです。
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暗示的指導と明示的指導の最も大きな違いは、学習対象となる言語規則を明示するかどうかです。具体的な指導例で違いを確認しましょう。
例えば、「友だちの家で許可を求める」という同じ場面を設定します。
明示的指導
「『~てもいいですか』を使って許可を求めましょう。『使う→使ってもいいですか』『入る→入ってもいいですか』のように、『て形+もいいですか』で作ります。」
暗示的指導
教師は、「トイレを使ってもいいですか」「テレビを見てもいいですか」「荷物を置いてもいいですか」などの表現を含む会話を、規則を説明せずに提示します。その後「友だちの家に行きました。トイレを使いたいです。テレビが見たいです。友だちに聞きましょう」など、意味の伝達を目的とした活動を行います。
このように、同じ言語項目でも、規則そのものを意識的な学習対象とするのか、規則を明示せず、意味の理解や伝達を中心とするのかによって、指導のあり方が変わります。
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暗示的指導は、例えば次のような形で日本語の授業に取り入れることができます。ここでは、日本語教師と学習者がおにぎりを作る料理教室を例に、3つのポイントと具体的な指導方法を見ていきましょう。
1.目標となる言語形式を繰り返し提示する
文法規則を説明せず、会話や文章などの中に目標となる表現を繰り返し登場させます。学習者は意味を理解しながら、同じ言語形式に何度も触れることになります。
例えば、教師はおにぎりを作りながら、次のような指示を繰り返します。
「ご飯が少し冷めたら、手に水をつけてください」
「手に水をつけたら、塩をつけてください」
「具を入れたら、ご飯を握ってください」
「握ったら、のりを巻いてください」
このとき、「~たら、~てください」の文法規則は説明しません。
2.文脈から意味を理解できるようにする
絵や実物、教師の動作、会話の状況などを利用し、文法規則を説明しなくても、目標となる表現の意味を理解できるようにします。
例えば、おにぎり作りの活動では、教師が炊きたてのご飯を見せながら「熱いから、まだ触らないでください」と伝えます。その後、ご飯が少し冷めたところで「ご飯が冷めたら、手に水をつけてください」と指示し、動作を見せます。こうして、学習者が状況や教師の動作を手がかりに、「~たら」が表す時間的な関係を理解できるようにします。
3.意味の伝達を目的とした課題を設定する
文法規則そのものではなく、意味の理解や伝達を中心とした課題を設定します。
例えば、おにぎり作りのあと、学習者が自分の国の料理のレシピを書き、ほかの学習者に作り方を伝える活動を行います。教師は「~たら、~てください」という文法規則を説明せず、料理の手順を相手にわかりやすく伝えることを活動の目的にします。
登録日本語教員試験対策ポイント
登録日本語教員試験では、個々の用語を暗記するだけでなく、関連する概念との違いを整理しておくことが大切です。暗示的指導については、関連する概念との違いを整理しておきましょう。
- 暗示的指導 ≠ 暗示的知識:指導方法と知識のあり方の違い
- 暗示的指導 ≠ 帰納的指導:規則を意識的に発見させるかどうかの違い
- 暗示的指導 ≠ 暗示的学習:暗示的に指導しても、学習者が規則に気づくことがある
ここまでの内容をクイズで確認しましょう!
問題例1:「暗示的指導」と「暗示的知識」の関係について、最も適切なものを一つ選んでください。
1. どちらも教師が用いる指導方法を表す
2. 暗示的指導を行えば、必ず暗示的知識が形成される
3. 暗示的指導は指導方法、暗示的知識は学習者の知識のあり方を表す
4. 暗示的知識を形成することだけが暗示的指導の目的である
正解:3
解説:暗示的指導は教師側の「指導方法」、暗示的知識は学習者が持つ「言語知識のあり方」を表します。
問題例2:次のうち、暗示的指導の例として最も適切なものを一つ選んでください。
1. 教師が「て形+もいいですか」と規則を説明してから会話練習をする
2. 複数の例文を示し、学習者に共通する文法規則を意識的に発見させる
3. 規則を説明せず、目標表現を含む会話を文脈とともに繰り返し提示する
4. 活用表を提示し、学習者に目標文型の作り方を覚えさせる
正解:3
解説:規則を明示せず、意味を理解する中で目標となる言語形式に触れさせるため、暗示的指導の例として適切です。3のように学習者自身に規則を意識的に発見させる方法は、帰納的指導に当たります。
まとめ
暗示的指導の特徴は、文法規則そのものではなく、文脈のある意味重視のコミュニケーションの中で言語形式を経験できることです。意味の理解や伝達に注意を向けながら日本語を処理するため、実際のコミュニケーションに近い言語処理を経験できるというメリットがあります。
一方で、暗示的指導が常に効率的とは限りません。教師が規則を明示しないため、学習者が目標となる言語形式に気づかなかったり、理解に時間がかかったりすることもあります。そのため、授業時間の制約や学習者の特性、学習目的などを踏まえて、暗示的指導をいつ、どのように取り入れるかを考えることが大切です。
今回取り上げた暗示的指導のように、第二言語習得や日本語教授法には、用語の定義を覚えるだけでは理解しにくい、抽象度の高い概念も少なくありません。関連する概念との違いや、実際の指導場面と結びつけながら整理することが、独学では難しいと感じることもあるでしょう。TCJの短期合格パックでは、こうした日本語教員試験に関わる重要な用語や概念を、具体例とともにわかりやすく学ぶことができます。試験対策を効率よく進めたい方は、ぜひTCJの短期合格パックをご活用ください。
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参考文献
Hulstijn, J. H. (2005). Theoretical and empirical issues in the study of implicit and explicit second-language learning: Introduction. Studies in Second Language Acquisition, 27(2), 129–140.
Goo, J., Granena, G., Yilmaz, Y., & Novella, M. (2015). Implicit and explicit instruction in L2 learning: Norris & Ortega (2000) revisited and updated. In P. Rebuschat (Ed.), Implicit and Explicit Learning of Languages (pp. 443–482). John Benjamins.
Spada, N., & Tomita, Y. (2010). Interactions between type of instruction and type of language feature: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 263–308.