今回は日本語の「受け身」、その中でも「直接受け身」について解説します。受け身は日本語教育では初級後半で扱うことが多い文型ですが、どのようなポイントを押さえればよいのか、注意すべき点や教え方動詞活用と文構造の変化、意味の分類などについて理解しましょう。日本語教員試験対策として出題傾向も解説します。
直接受け身とは何か
直接受け身とは簡単に言うと「誰か(何か)が誰か(何か)によって、直接何かをされる」という意味の受け身文です。「(私は)先輩に怒られた」「(私は)先生に褒められた」など、主語が動作主からの動作を直接受けます。
直接受け身の文には対応する能動文があり、能動文と受け身文の書き換えが可能です。
例えば、
先輩(A)が 私(B)を 褒めた(C)
→私は 先輩に 褒められた
学生(A)が 先生(B)に 質問する(C)
→先生は 学生に 質問された
など、「A(動作主)がB(受け手)にC(動作・行動)をする」という文のAとBを入れ替えて作ることができます。
受け身の文型は一般的に初級後半で学習することが多いです。
その中でも直接受け身は動作主と受け手の対応関係が直接的なので英語など他の言語でも翻訳しやすく、学習者にとっては受け身文の中ではわかりやすいと言われています。
ただ、日本語の受け身には動詞の活用があり、文のパターンによっても助詞の変化の仕方が異なります。後に学習する「間接受け身」と合わせると難度が増してくるので、導入に当たってはよく準備してから進める必要があります。
直接受け身の文型と作り方
学習者は受け身文の導入で初めて受け身文を作るための動詞の形、「受身動詞」を学習します。それまでに習っているほかの活用と混同しやすくなりますので注意しながら導入していきます。
1グループ
「ます」を取って、その前の音をア段の音に変えます。「れる」をつけて、「a-れる」の形にします。
書きます→書かれます
作ります→作られます
叱ります→叱られます
2グループ
「ます」を取って「られます」をつける。
食べます→食べられます
見ます→見られます
借ります→借りられます
褒めます→褒められます
3グループ
特別な形のためこのまま覚えます。
来(き)ます→来(こ)られます
します→されます
これらの活用は一般的には簡単に「受身形」と呼ぶことも多いですが、厳密には受身形になった動詞自体がさらに「書かれない」「書かれれば」などと活用することもあります。受け身の形になった動詞そのものが辞書形としてほかの活用のもとになるため、元の動詞に[(a)-reru]という接辞がくっついた「派生動詞」として扱い「受身動詞」と呼びます。
※注意点
2グループの動詞(と3グループの「来ます」)は可能動詞(可能形)と活用が同じですが、1グループは異なるため注意が必要です。
可能動詞になった2グループの動詞は「ら抜きことば」にすることできますが、受け身では「ら抜き」ができません。導入時にそこまで教える必要はないかと思いますが、もし質問があった場合に供えて知っておくといいと思います。
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直接受身の文は、基本的に他動詞、つまり目的語をとる動詞によって作られます。 動詞は上で解説した「受身動詞」の形に変換され、文の最後に置かれます。動詞以外の部分は「語順の変化」「助詞の変化」がポイントです。
<ヲ格の文>
能動文のヲ格を主語にする受け身文は、動作主と受け手の位置が入れ替わり、動作主が二格になります。
(例)
(能動文)父は 私を 叱りました。
(受け身文)私は 父に 叱られました。
(能動文)蚊が 私を 刺しました。
(受け身文)私は 蚊に 刺されました。
<二格の文>
能動文の二格を主語にする文は、助詞はそのまま、動作主と受け手の位置が入れ替わります。
(例)
(能動文)学生は 先生に 質問しました。
(受け身文)先生は 学生に 質問されました。
(能動文)山田さんは 私に 手紙を渡した。
(受け身文)私は 山田さんに 手紙を渡された。
【そのほかの受け身】
非情の受け身
主語が特定の人物などではなく「創作物・創造物」や「出来事」などの場合にも直接受け身の形が取られます。建物やイベントなど、無生物が主語になっている場合です。
通常動作主は明示されず、ヲ格の目的語がそのまま主語になります。
(例)
(能動文)2021年、東京オリンピックを 開きました。
(受け身文)2021年、東京オリンピックが 開かれました。
(能動文)世界中で この本を 読んでいます。
(受け身文)この本は 世界中で 読まれています。
(能動文)コンテストの優勝者に トロフィーを 贈った。
(受け身文)コンテストの優勝者に トロフィーが 贈られた。
なお、「直接受身」「間接受身」の定義については研究者の間でも様々な意見があり、「非情の受身」をどちらとするかは研究者によって異なります。
・例外的な助詞の変化
動作主が個人の場合は基本的にニ格になりますが、動作主が歴史上の人物や著名人、団体などの場合は「によって」や「から」が使われます。
(例)
法隆寺は聖徳太子によって建てられました。(×聖徳太子に建てられました)
この本は太宰治によって書かれました。(×太宰治に書かれました)
給料は会社から支払われます。(×会社に支払われました)
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日本語教員試験で受け身文に関する問題が出るのは主に「言語」の分野と思われます。
日本語教員試験の出題範囲は
(1)社会・文化・地域 (約 1~2 割)
(2)言語と社会 (約 1 割)
(3)言語と心理 (約 1 割)
(4)言語と教育(教育実習を除く) 約 3~4 割
(5)言語 (約 3 割)
の5つの区分に分かれていますが、特にその中でも5つ目の「言語」では日本語に関する知識そのものが問われる問題が多く出題されます。
日本語教員試験は過去問が公開されていませんが、前身である「日本語教育能力試験」では、大問ごとに「日本語の文法に関する説明文を読み、その内容に関して各5~7問ほどの問題が出される」という形式のものがよく出題されていました。
予想される出題例を見てみましょう。
問題例1:
受け身文のように、ある出来事をどのような視点や立場から述べるかに関わる文法形式を何と言うか。1.アスペクト
2.テンス
3.ヴォイス
4.モダリティ
正解:3
他の選択肢:
1「アスペクト」:「~ている」などの時間的な段階に関する表現のこと
2「テンス」:「明日学校へ行く」「昨日学校へ行った」などの時制のこと
4「モダリティ(ムード)」:「~だろう」など話し手の心的態度を表す(推量、意志、依頼、断定、願望など)
問題例2:
次の文は学習者の誤用である。【】の文と同じ誤用を次の1~4から選べ。
【私の国では、英語が話しられます。】(「話されます」の意)
1.私はお酒が飲まれます。2.先生は本を読みされました。
3.漢字が分からないとき、先生に教えられました。
4.この本は1990年に書きられました。
正解:4
1グループの動詞に2グループの活用規則をあてはめてしまった例です。
他の選択肢は、
1:可能形と受け身形を混同している例
2:1グループ動詞に3グループの規則をあてはめている例
3:活用の誤用ではなく、授受動詞の不使用による誤用
問題例3:
日本語の受け身文についての説明として正しいものを選べ。
1.直接受け身の文では動作主と受け手の能動・受動関係が成り立ち、常に有情の主語が用いられる。
2.日本語では、第三者の動作の影響を受け手の視点から述べることが多く、受け身文では有情の主語が用いられることが多い。
3.無生物を主語にする受け身は「非情の受け身」と呼ばれ、対応する能動文を持たない。
4.「迷惑の受け身」は間接受け身の形で表され、直接受け身の文は話し手の迷惑や被害の意味を持たない。
正解:2
他の選択肢は、
1:直接受け身の文でも「オリンピックが開かれた」のように非情の受け身が使われることがあります。
3:前半は正解ですが、「対応する能動文を持たない」は誤りです。
4:直接受け身の文であっても、「私はハチに刺された」のように話者の被害を表す場合があります。
日本語教育での指導のコツ
受け身文は直接受け身と間接受け身があり、日本語教育では直接受け身から教えることが多いです。後に学習する間接受け身で躓かないためにも、直接受け身を学習する段階でしっかり文構造を理解してもらうことが大切です。
1)活用の定着
可能形や尊敬語などとも活用が似ています。どこが同じでどこが違うのか、比較して整理しましょう。
2)助詞の変化や文構造を視覚的に理解する
まずは能動文を見せ、どの部分が主語に変わるのかを矢印や色などで示すと視覚的に理解しやすくなります。特に助詞の変化はややこしいので、文のパターン別に分けてそれぞれ練習を行います。
3)日本語での受け身形の「使い方」を理解してもらう
また、受け身文の難しいポイントとして「いつ使うのかがわかりにくい」という点があります。学習者が自分の母語で「母が私に言った」という能動文を使うのが通常の場合、日本語ではなぜ受け身を使うのか?という感覚を掴むのが難しく、定着しにくいことがあります。
日本語では、一つの文に2人以上登場する場合は話者の視点で話されることが多く、「先生は私に言いました」よりも「先生に~と言われました」のように受け身の形をとるほうが自然です。受け身文の導入を行うときは、こうした習慣的な部分も含めて紹介するようにするとよいでしょう。
受け身文については過去の記事でも紹介していますので、合わせてぜひご覧ください。
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今回は「直接受け身」について解説しました。受け身形は学習者にとってはもちろん、教師にとってもスムーズに教えるのが難しい範囲です。直接受け身と合わせて学習する「間接受け身」と合わせて、文法と使い方を整理してみましょう。(間接受け身とは?)
初級後半では「可能」「受け身」「使役」「使役受け身」と、動詞変化が複雑になり学習者も混乱しやすくなりますので、丁寧に整理して定着を図るのが教師の腕の見せ所です。
また、日本語教員試験での文法問題では、
・その文法がムード、モダリティなどどのような区分に当たるのか
・その文法に関連して、動詞の分類法などを提唱した学者の名前
・使われる動詞の種類(意志動詞・無意志動詞・自動詞・他動詞など)
・文法の活用や意味、使用法
などの点が狙われやすいです。
そもそもどのポイントを調べればいいのかわからないなど、初めての学習では独学が難しい点もあります。試験でどのように出題されるかといった部分はなかなか情報が得にくいのも現実です。
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