2024年から始まった国家試験「日本語教員試験」には、実際の教育現場を想定した実践的な問題が多く出題されています。今回はその中でも、近年注目される「フォーカス・オン・フォーム」という教授法の考え方を、関連する二つの考え方とあわせて整理していきます。
目次
「フォーカス・オン・〇〇」って何?
冒頭の「フォーカス・オン・フォーム」という言葉を、聞いたことのある方も多いかもしれません。まず「フォーカス・オン(focus on)」とは、英語で「〜に焦点を当てる」という意味です。
第二言語習得(SLA)研究者のマイケル・ロング(Michael Long)は、言語教育において「意味」と「言語形式」にどのように注意を向けるかという観点から、「フォーカス・オン・フォームズ」「フォーカス・オン・ミーニング」「フォーカス・オン・フォーム」という三つの考え方を整理しました。名前がよく似ていて紛らわしいので、一つずつ見ていきましょう。
フォーカス・オン・フォームズ(Focus on Forms)
「フォーカス・オン・フォームズ」は、形式重視の考え方です。教えるべき発音・語彙・文法をあらかじめ設定し、順序立てて並べてシラバスを組み、その形式を一つひとつ、説明と練習を中心に学習していきます。「最初から正しく」という発想が根底にあります。名前が複数形の「フォームズ」なのは、文法項目を一つひとつ積み上げていくイメージだと考えるとわかりやすいでしょう。
典型的な指導の例として、次のようなものが挙げられます。
・文法訳読法…教師が教科書を読み、学習者がそれを訳していく方法。
・オーディオ・リンガル・メソッド…ミムメム練習(モデル文を聞いて繰り返す)などで文型を体に覚え込ませる方法。
フォーカス・オン・フォームズでは、形式の正確さを重視する一方、学習者が自分の言いたいことを自由に表現する機会は限られてしまうこともあると指摘されています。
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「フォーカス・オン・ミーニング」は、意味重視の考え方です。明示的な文法指導よりも、意味の理解やコミュニケーションを重視し、意味のあるインプットにたくさん触れる中で、自然に言語が習得されていくと考えます。
典型的な例として、次のようなものが挙げられます。
・イマージョン教育…算数や理科などの教科そのものを目標言語で行い、内容を学びながら言語も身につけていく方法。
・ナチュラルアプローチ…エラー訂正を行わず、理解可能なインプットを大量に与えることを重視する方法。
フォーカス・オン・ミーニングでは、理解する力は伸びる一方、言語形式の正確さの向上は学習者任せになってしまう、という課題が指摘されてきました。
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次第に、フォーカス・オン・フォームズ(形式)、フォーカス・オン・ミーニング(意味)の両端に位置するこの二つだけでは言語の発達に十分でないことが、SLA研究で示されてきました。そこで、意味やコミュニケーションを中心にしながら、必要に応じて学習者の注意を言語形式にも向ける第三の考え方として提案されたのが「フォーカス・オン・フォーム」です。
大切なのは、はじめから言語形式に焦点を当てた授業ではなく、あくまで意味やコミュニケーションが中心の活動の中で、必要に応じて学習者の注意を言語形式に向けさせるという点です。形式と意味の両方を大切にし、コミュニケーションの中で学習者の注意を必要な言語形式へ向けるところに特徴があります。
フォーカス・オン・フォームのアプローチの一つに位置づけられるのが、TBLT(タスク・ベースの言語指導)です。「病院で症状を説明する」「アルバイトで注文を取る」といった、実生活で必要になる活動=「タスク」を単位にシラバスを組み、コミュニケーションのために言語を使いながら、その過程で必要に応じて形式への指導を組み込んでいきます。
形式への焦点化は、文法説明のような明示的な形だけではありません。たとえば、ある文法形式がたくさん出てくるインプットを大量に聞かせる「インプット洪水」、教材の中でその形式を下線やマーカーで目立たせる「インプット強化」、そしてリキャストと呼ばれるフィードバックなどがあります。リキャストとは、コミュニケーションの流れを止めずに、学習者の誤りをさりげなく正しい形で言い直して示す方法です。たとえば学習者が「昨日食べた日本料理は、おいしいでした。」と言ったとき、教師が「あ、そうですか。おいしかったですか。」と返すのがリキャストです。誤りを明示的に指摘するのではなく、会話の自然な流れを保ちながら、正しい形をさりげなく返すのがポイントです。
このように、日本語教育でも、意味のあるコミュニケーションを重視しながら、必要に応じて言語形式に注意を向けるという考え方が最近取り入れられています。
日本語教員試験ではどう問われる?
では、こうした教授法は試験でどのように問われるのでしょうか。
日本語教員試験は、文部科学省が実施する国家試験です。応用試験は、基礎的な知識や技能を活用した「問題解決能力」を測るため、教育実践と関連させて出題されるとされています。学習者の発話や、教室での教師と学習者のやり取りの音声を用いた問題も含まれます。つまり、用語を丸暗記するだけでは対応しづらく、その知識を授業の場面でどう活かすかまで問われる、ということです。
この出題方針の背景にあるのが、文化審議会国語分科会が2021年にまとめた「日本語教育の参照枠」です。参照枠はCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考にしており、「言語・文化の相互理解・相互尊重」を前提に、実際の場面で言語を使って課題を遂行する力や、相手とのやり取り(相互行為)を重視しています。この「課題遂行」「相互行為」という考え方は、タスクを通して言語を使うTBLTや、コミュニケーションの中で言語形式にも注意を向けるフォーカス・オン・フォームとも関連しています。
フォーカス・オン・フォームをはじめとする教授法の知識は、日本語教師をめざす人向けの試験で従来から繰り返し扱われてきたテーマです。問われ方はさまざまですが、たとえば、「コミュニケーション中心の活動の中で言語形式にも注意を向ける指導を何と呼ぶか」という用語の識別や、フォーカス・オン・フォームとフォーカス・オン・フォームズ(形式重視)の違いなど、理論と実践を結びつける角度が考えられます。用語だけを覚えるのではなく、それぞれの考え方が教室でどう現れるかまで理解しておくと、教室場面と結びつけた設問にも対応しやすくなります。
問題例1:
次のうち、フォーカス・オン・フォームの考え方に基づく指導として最も適当なものを一つ選びなさい。
1.学習する文法項目をあらかじめ順序立てて並べ、一つずつ文型の説明と練習を繰り返す。
2.文法の明示的な説明は行わず、理解できるインプットをたくさん与えることだけに専念する。
3.買い物の場面でやり取りをする活動の中で、学習者の誤りに気づいたとき、会話の流れを止めずにさりげなく正しい形を示す。
4.学習者が話したい内容にかかわらず、その日に教える文型を必ず使わせるように会話を誘導する。
正解:2
問題例2:
ある日本語教師が、「友だちを食事に誘って、日程を決める」というタスクを中心に授業を組み立てた。次のうち、この授業で教師がフォーカス・オン・フォームの考え方に基づいて行った指導として最も適当なものを一つ選びなさい。
1.タスクに入る前に、誘うときの文型「〜ませんか」「〜ましょう」を導入し、例文を繰り返し練習させてからタスクを行わせた。
2.学習者がタスクでやり取りをする様子を観察し、日程調整の場面で誤りが目立った表現について、タスクのあとで取り上げて確認した。
3.タスクの正確さは重視せず、学習者が最後まで会話を続けられたかどうかだけを評価した。
4.タスクの前に、日本語の敬語の体系を文法規則として一覧で説明し、覚えているかを確認した。
正解:3
フォーカス・オン・フォームは、コミュニケーションのための活動を中心に進めながら、必要に応じて学習者の注意を言語形式に向けさせる指導です。2は、タスクでのやり取りを通して見えた課題を取り上げており、これに該当します。1と4は形式の説明や練習を優先した対応で、3は形式にほとんど注意を向けない対応となり、いずれもフォーカス・オン・フォームとは異なります。
まとめ:試験対策を効率よく進めるには?
フォーカス・オン・フォームをはじめとする教授法の分類は、名前が似ていて混同しやすいものの、「意味と形式のどちらに、どう注意を向けるか」という軸で整理すれば、理解しやすくなります。日本語教員試験では、こうした理論を現場の場面と結びつけて問う問題が多いため、用語の暗記だけでなく、具体的な活動例とセットで押さえておくことが大切です。
とはいえ、出題範囲は非常に広く、独学で効率よく対策を進めるのは簡単ではありません。そこで、TCJの「国家試験合格対策パック(eラーニングコース)」があります。試験によく出る項目を演習形式で重点的に学べる構成で、試験を知り尽くしたプロ講師による問題解説を通して、本番で必要になる「解く力」を養えます。eラーニングなので、いつからでも学習を始められ、繰り返し視聴できる点も魅力的です。
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日本語教師として自信をもって活躍するために、ぜひ講座内容をチェックしてみてください。
引用
大関浩美(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』白井恭弘監修 くろしお出版
鈴木祐一(2024)『あたらしい第二言語習得論―英語指導の思い込みを変える』研究社
文化審議会国語分科会(2021)「日本語教育の参照枠 報告」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/93736901_01.pdf
文部科学省「令和7年度 日本語教員試験 試験案内」 https://cdn.nihongokyouinshiken.mext.go.jp/doc/令和7年度日本語教員試験_試験案内.pdf